大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)190号 判決

控訴人 コルム貿易株式会社

右代表者代表取締役 富山和敬

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 高橋武

同 若原俊二

被控訴人 (旧商号 株式会社サンレイインターナシヨナル) サンレイ・ヤマコー株式会社

右代表者代表取締役 吉田禮三

右訴訟代理人弁護士 林弘

同 中野建

同 松岡隆雄

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一申立

控訴人らは、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。

第二主張

次に付加するほかは原判決の事実摘示と同じであるからこれを引用する。

(控訴人らの補充主張)

一  控訴人富山の忠実義務、競業避止義務違反について

(一) 控訴人富山は昭和五〇年一二月三日控訴会社の設立登記をなしたが、被控訴会社に在任期間中は控訴会社のために全然通信販売取引をなしていないので、控訴人富山に競業避止義務違反はない。

(二) 控訴人富山の控訴会社設立登記は営業の準備行為にあたるが、控訴人富山の被控訴会社における取締役とその性格(使用人性)、退職の事情に鑑みれば、かかる準備行為をもって取締役の忠実義務違反となすことはできない。

二  控訴人富山の不法行為について

控訴人富山には、奈須捨夫をして被控訴会社の一切の資料と得意先名簿(約二万名分)を持ち出させて同人を引き抜いた事実、被控訴会社の商品カタログを殆んど模倣した控訴会社の商品カタログを作ったうえ、被控訴会社から違法に入手した前記得意先名簿を不当に利用した事実はない。特に奈須の名簿盗取についてはその時期、態様につき何らの主張立証もなく被控訴人の主張は不可解である。

三  控訴会社の不正競争防止法違反について

被控訴人の主張によっても控訴会社のいかなる行為を以て被控訴会社の「商品ト混同ヲ生ゼシムル行為」および「営業上ノ施設又ハ活動ト混同ヲ生ゼシムル行為」となすのか明らかでなく右主張は到底認め難いものであるが更に反論を加えると、

(一) 被控訴会社の販売商品は特定六人の書家の筆になる格言の掛軸、掲額であるが、かかる商品はそれが被控訴会社から出されたものであることを示し得る手段いわゆる商品表示を欠いており、控訴会社の販売にかかる格言の書家は前記被控訴会社販売の格言の書家と同一ではないから、文字および格言が万人の共有財産であることに鑑み控訴会社には被控訴会社の「商品ト混同ヲ生ゼシムル行為」(商品主体混同行為)は存しない。

(二) 更に被控訴会社の営業表示は被控訴会社の商号のみでありその周知性はともかく控訴会社の商号が被控訴会社と混同を生ぜしむる虞(営業主体混同行為)はない。

(三) その他被控訴人は控訴人らが強く争う控訴会社代表者による被控訴会社得意先名簿の盗取、悪用の主張のほか控訴会社がいかなる不正な手段方法によって被控訴会社の顧客獲得可能性を侵害したというのか具体的に主張するところがないから、以上いずれの点からみても被控訴人の不正競争の主張は強く争うものである。

(四) 一般的にいって通信販売においては既に他社によって送付された商品カタログと、同一商品カタログを同一消費者に送付しても全く効果は上らない。購入希望者は先のカタログによって購入済みで、希望しない者は何度送付しても購入を希望しないからである。かかる経験則によれば特殊な事情がなければ通信販売業における不正競業はありえない。

四  被控訴人主張の損害について

被控訴人は控訴会社の営業によって自社の売上高の減少を来したと主張するがその額を争う。被控訴人がその為の立証として提出したものは甲第八号証の一、二のみであるところ、同号証による販売は被控訴人がそれとの類似商品という乙第八号証の商品の販売開始の一年以上前に終了しているからその間に因果関係を欠き、仮に何らかの意味で因果関係が認められるとしても損害額は甲第八号証の一、二による商品の売上減に限定さるべく、甲第一〇号証による顧客名簿約六〇〇〇名分の取引事例のみで名簿の一般的使用料を算出しているのは論理の飛躍であり認め難い。

五  消滅時効(当審における新たな主張)

控訴人富山が控訴会社の業務としてカタログを送付したのは昭和五一年一二月二九日が最終であり、その購入申し込みは遅くとも同五二年三月末日には終了している。従って、被控訴会社は遅くとも右時期には損害及び加害者を知ったものというべきであるから、控訴人らに対する不法行為並びに不正競争防止法に基く損害賠償請求権は遅くとも同五五年三月末日をもって時効消滅している。

(被控訴人の認否と反対主張)

いずれも否認ないし争う。

一(一)  控訴人らの当審一の(一)の主張は争う。

控訴人富山は昭和五〇年一二月三日控訴会社を設立するや模倣利用カタログを作成したうえ控訴会社の為に通信販売を開始したのであって右行為は正しく取締役の競業避止義務違反行為であり、仮に控訴人ら主張の様に控訴人富山の被控訴会社在任中は右通信販売をしていないとしても、商法二六四条の立法趣旨からして競業禁止の範囲である「営業の部類に属する取引」とは会社の実際に行う事業と市場において競合し会社と取締役との間に利益の衝突を来す可能性のある取引であり、カタログ作成或は顧客名簿入手行為その他通信販売業務に密接に関連する取引行為があれば競業避止義務違反となるのである。

(二)  控訴人富山は被控訴会社の取締役であったから取締役としての性格或は退職の事情等は忠実義務違反の成否を論ずるに当り斟酌すべきではない。

二  控訴人富山が奈須捨夫をして得意先名簿等を盗取させたことは疑問の余地はない。

三  控訴会社の不正競争行為は原審来主張のとおりである。長年に亘り被控訴会社から趣味雑貨商品カタログを送られてきた顧客が他の通信販売業者から今までの被控訴会社の取扱商品と同種商品のカタログが送られてきた場合、顧客としては右の他業者を被控訴会社の別会社、関連会社としてその通信販売に応ずることは容易に想像しうるところであって、このような混同、誤認は顧客からの報告、問合によれば現在も発生しているのであり控訴人らの当審主張は一方的である。

四  被控訴会社の損害については原審主張のとおりで、控訴人富山は被控訴会社から違法に入手した得意先名簿を本訴係属後も引続き使用して通信販売をしている模様でこれによる被控訴会社の損害はその後も生じており、控訴会社が通信販売の為のカタログを送付したのは昭和五一年一二月二九日が最後であるとの主張は事実に反する。

五  なお時効消滅の主張については、原審口頭弁論終結前に提出することができた抗弁で、控訴審において始めて主張することは少くとも重過失に基くものであって、時機に遅れた攻撃防禦方法として許されない。

第三証拠《省略》

理由

一  被控訴会社が昭和四一年九月一日に設立された趣味雑貨、室内装飾品等の通信販売等を営む会社で、控訴会社は同五〇年一二月三日に設立された各種雑貨の販売等を営む会社であり、控訴人富山は、同四四年九月一日に被控訴会社に従業員として雇用され、その後同四六年二月二八日には被控訴会社の取締役に選任され、同五一年一月末日までその地位にあったものであるが、右取締役在任中の同五〇年一二月三日に控訴会社を設立して、その代表取締役に就任し、現在に至っていること。被控訴会社が趣味雑貨商品(諸外国から輸入した掛軸、照明器具、大理石複製美術彫刻等の商品)を通信販売していたことは当事者間に争いがない。

二  そこで被控訴人主張の被控訴会社の営業の実態、周知性、及び営業上の秘密たる得意先名簿について検討する。右争いのない事実と《証拠省略》によると、被控訴会社が通信販売で趣味雑貨商品を販売するについては、販売の効率を良くするために、多額の費用を投じ、創業当初は全国各地の高額所得者、ロータリークラブ、ライオンズクラブ、医師会等の各会員名簿等に基き、二〇〇万人位にダイレクトメールの通信販売をなし、その中から注文のあった者を蓄積し、二回以上の注文者をA級、一回の注文者をB級として、昭和五〇年ごろには、約三万名位の顧客カードを作成してこれを保管し、営業上の秘密として極秘扱をしていた。そして当時被控訴会社の商品とその営業は周知のものとなっていた(周知とは特定の誰かの商品、営業が取引者、需要者間に相当広く知られて業務の信用の基礎となっている客観的な状態をいうものと解するところ、右証拠によると後述控訴会社が被控訴会社と同様の趣味雑貨商品の通信販売をなすに及んで、被控訴会社の得意先からの再三にわたる照会や、送達不能となった控訴会社のカタログが郵便局を通じて数多く被控訴会社に返送されて来たことが認められることからも裏付けられるというべきである。)ことを認めることができ、他にこれを覆すに足る証拠はない。

三  次に控訴人富山の地位、退任に至る経過、不法行為等について判断する。

(一)  前記事実と、《証拠省略》によると、控訴人富山は昭和四四年九月新聞公告による募集に応じて被控訴会社に入社し、同四六年二月二八日には取締役となり、同四九年二月以降東京支店に勤務したが、東京における住居費用の負担の事等に端を発して被控訴会社代表者と紛争を生じ、昭和五〇年一二月二九日付で同人に対し条件付退職届を提出し、同五一年一月末日までは被控訴会社の取締役の地位にあったが、取締役としての在任中の同五〇年一二月三日、被控訴会社と全く同じ業務内容で競業関係にある控訴会社を設立し、被控訴会社の承諾なしにその代表取締役となり、同じく被控訴会社に勤務していた奈須捨夫(同人は昭和五〇年末ごろ被控訴会社を退社)を控訴会社の取締役に就任させたことを認めることができ、これを覆すに足る証拠はない。

(二)  被控訴人は、控訴人富山において、右奈須をして被控訴会社の一切の資料と得意先名簿(約二万名分)を持出させて、控訴会社の取締役に就任させ、控訴会社設立後、被控訴会社の商品カタログを殆んど模倣した控訴会社のカタログを作ったうえ、被控訴会社から違法に入手した右得意先名簿を不当に利用して被控訴会社と同様の趣味雑貨商品の通信販売を開始したと主張し、控訴人らにおいて強くこれを争っているのでこの点について判断する。《証拠省略》によると、控訴会社が顧客に送付した商品のカタログは被控訴会社のそれと全く同一であるものは少いが、酷似しているものが殆んどであることが認められる。次に奈須をして被控訴会社の一切の資料と得意先名簿を持出させたことについては、《証拠省略》を除いては、直接これを裏付ける適格な証拠はないが、右証拠と、前記認定事実に《証拠省略》によると、前に被控訴会社に勤務し、控訴人富山の部下として共に商品発送業務に従事し、同控訴人が他の業務に配置換となった後は、商品発送業務の責任者として、前記得意先名簿にも関与していた奈須捨夫を、控訴会社設立間なしにその取締役として迎え入れたこと、控訴会社において被控訴会社の商品カタログと殆んど同じカタログを作成(この点について控訴人富山は原審及び当審において、かつて被控訴会社に勤務したことのある池田経営のアドリブに作成を依頼したからであるというのであるが、完成したカタログが被控訴会社のカタログと酷似していることは同控訴人も認めるところであるから、仮に同控訴人のいうとおりであるとしても同人の責任に消長を来すものではない。)したうえ、これを顧客にダイレクトメールの方法で次々と継続して送付し、その中には、被控訴会社又はその代表者との結びつきが強く、一般的な名簿に登載が考えられない被控訴会社の顧客に対してまで、控訴会社のカタログが送付されている事実等が認められるのであって、右一連の各事実を合せ考えると、《証拠省略》のうち「奈須が本訴提起後、被控訴会社代表者の本件訴状を示しての質問に対し否定せず却って申訳ないことをしたと謝罪した。」との部分は、単なる虚構の口実で被控訴会社を退職したことえの弁明とみるよりは、名簿持出等被控訴会社に対する背信性のある違法行為を謝罪した趣旨の発言と認むべきであって、以上を綜合考察すれば控訴人富山において、奈須をして同人の被控訴会社退職前に被控訴人の営業上の秘密事項(今後の商売上の企画等)たる資料と、前記得意先名簿(約二万名分)を持出させて控訴会社の取締役に就任させ、同会社設立後、被控訴会社の商品カタログと殆んど同一の控訴会社のカタログを作ったうえ、被控訴会社から違法に入手した右得意先名簿を不当に利用して、被控訴会社と同様な趣味雑貨商品の通信販売をなしたことを推認することができる。《証拠判断省略》

四  次に控訴会社の不正競争行為について判断する。前認定のとおり控訴会社代表者である控訴人富山が控訴会社を設立し、被控訴人の商品カタログと殆んど同一の控訴会社のカタログを作成し、被控訴人から違法に入手した右得意先名簿を不当に利用して、被控訴人と同様の趣味雑貨商品の通信販売をなした行為は、控訴会社の所為として被控訴人の商品ないし営業活動と控訴会社のそれとの混同、誤記を生ぜしめるものというを妨げず、このことは原審および当審における被控訴人代表者の各供述により認められる次の各事実、すなわち、控訴会社の営業開始後、被控訴会社の得意先からの再三にわたる照会や、送達不能となった控訴会社のカタログが郵便局を通じて数多く被控訴会社に返送されて来たことからも裏付けられるところであり、《証拠省略》によると、控訴会社の行為により被控訴会社は得意先を奪われ、商品の売上が激減し、営業上の利益を害されたことを認めることができるので被控訴会社が控訴会社の右通信販売行為によって損害を蒙ったことは明らかである。

控訴人らは控訴会社の通信販売行為は商品主体混同行為、営業主体混同行為を欠く等とるる主張するが、いずれも採用し難い。

五  そこで控訴人らの責任について判断する。

(一)  被控訴人は、控訴人富山について、被控訴会社の取締役としての忠実義務ないし競業避止義務違反に基く損害賠償責任と、不法行為に基く損害賠償責任を選択的に主張し、控訴人らにおいてこれを争っている。取締役と会社との法律関係には委任の規定が適用され、取締役が職務を行うに当っては当然善良なる管理者の義務を負い、会社のため忠実に職務を遂行する義務があり、また会社との競業を避止する義務があることは明らかであるところ、前記認定事実によると、控訴人富山は被控訴会社の取締役としての在任中、控訴会社の設立行為や、被控訴会社との競合行為の準備の為に、被控訴会社の一切の資料と得意先名簿を奈須をして持出させており、これらの行為が競業避止義務違反の点は暫く措き取締役の忠実義務に違反することは明らかである。控訴人らは、控訴人富山の取締役としての性格(使用人性)、退職時の特殊事情から忠実義務違反はないというが、そのような事情を認めるに足る証拠はない。又控訴人富山の奈須を通じての前記被控訴会社の得意先名簿持出及び被控訴会社の商品カタログと殆んど同一のカタログを作成して、被控訴会社から違法に入手した右名簿を利用して被控訴会社と同様の趣味雑貨商品の通信販売をなすことが、不法行為を構成することは明らかであるから、控訴人富山は、右各所為の結果被控訴人が被った損害を賠償すべき義務があることは多言を要しない。

(二)  被控訴人は、控訴会社について、不正競争防止法一条一号、二号に基く同条の二の損害賠償責任と、不法行為に基く損害賠償責任を選択的に主張し、控訴人らにおいてこれを争っているので先ず前者について判断する。

もとより販売方法としての通信販売やカタログ等の使用は自由であるから、特定人が物品の販売に長年にわたり右の方法を使用しても、この事実から直ちに右の使用につき排他的独占的使用権が生ずる理由はない。又他人が右の使用の自由を奪われる道理はない。しかし右の特定人の商品ないしは営業が右通信販売とカタログの記載型式で知られ、これを利用した商品を見る者が誰でも同人の商品ないしは営業と判断するに至った場合とか、右の方法が同人の商品並びに営業活動と極めて密接に結合し、出所表示の機能を果しているような特別の場合には、右の方法が、不正競争防止法一条一号、二号にいう他人の商品又は営業たることを示す表示として不正競業から保護せられるものといわなければならない。これを本件についてみるに、前示認定のとおり、被控訴人は長年にわたって開拓して来た全国各地の顧客に対し通信販売の方法で趣味雑貨商品を販売し、被控訴人の商品とその営業活動は周知のものとなっていたところ、控訴会社は被控訴会社の商品カタログと殆んど同一のカタログを使用し、被控訴会社から不法に入手した得意先名簿を利用して、被控訴人と同様の趣味雑貨商品の通信販売をなし、被控訴人の商品及び営業活動と混同、誤認を生ぜしめ、これによって被控訴会社において得意先を奪われ、商品の売上が激減し、営業上の利益を害されたことを認めることができ、又前示認定事実によると控訴会社代表者たる控訴人富山に、控訴会社の前示不正競業行為が、不正競争防止法一条一、二号に該当することについて故意、少くとも過失があったものと認められるので、控訴会社は、不正競争防止法一条一号及び二号に基く同条の二の損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

更に控訴会社の不法行為責任について考えるに、《証拠省略》によると、控訴会社が控訴人富山の個人的色彩の強い会社であることを認めることができるので、前記控訴人富山の不法行為は、控訴会社の代表取締役たる控訴人富山の職務を行うにつきなしたる行為と解すべきであるから、控訴会社は、右行為につき被控訴会社が被った損害を賠償すべき義務があり、控訴会社は右のいずれの責任をも負担していることは明らかである。

六  次に控訴人らの抗弁について判断する。

(一)  控訴人富山は、被控訴会社の取締役を辞任するに際し、被控訴会社との間で、自己所有株式の買取りや退職金の支払、その他についても一切円満に解決処理したうえ退社しており、しかも被控訴人よりその旨の念書の差し入れまで受けているから、既に被控訴人との関係は当時円満に解決済みで、これと矛盾する被控訴人の主張は、禁反言の原則に反し許されない旨主張する。控訴人富山が被控訴会社の取締役を辞任する際に、同控訴人に被控訴会社が主張の如き念書を差し入れたことは当事者間に争いがないが、《証拠省略》によると、右念書は、控訴人富山が所持していた被控訴会社の株の買取りや、同控訴人に支払うべき退職金等の問題が円満に解決処理されたことを確認したもので、その後被控訴会社に判明した控訴人らの本件不正競業行為等の件に関してまで円満解決済であることを確認した趣旨でないことが認められるから、控訴人らの右抗弁は採用できない。

(二)  次に控訴人らは、控訴人富山が控訴会社の業務としてカタログを送付したのは、昭和五一年一二月二九日が最終で、その購入申込みは遅くとも同五二年三月末日には終了している。従って被控訴会社は遅くとも右時期には損害及び加害者を知ったものというべきであるから、控訴人らに対する不法行為並びに不正競争防止法に基く損害賠償請求権は遅くとも同五五年三月末日をもって時効消滅していると主張するのに対し、被控訴人において右抗弁は時機に遅れた攻撃防御方法であるから却下されるべきであるというのである。控訴審において提出された攻撃防御方法が時機に遅れたか否かは第一審以来の訴訟の経過をも通観して判断すべきものであるとは解するが、本件においては右消滅時効の抗弁は当審第一回弁論において主張されたものでその審理のために特に訴訟が遅延するとは認め難いから、この点についての被控訴人の右主張は採用できない。しかし当審における被控訴会社代表者の供述によると、控訴会社によるカタログの発送はその後も現在にいたるまでなされ、これによる被控訴会社の損害は現在でも継続して発生しており、被控訴会社が本訴で賠償を求める損害も、本訴提起の昭和五五年までの分をも請求していることは弁論の全趣旨により認められ、不法行為や不正競争行為が継続的に発生し、損害も又日々継続して新に発生している場合については、被害者が最初に損害及び加害者を知った時に損害全部の賠償請求権についての消滅時効が進行するものではなく、その各損害を知った時から別個に消滅時効は進行するものと解すべきであるから、控訴人らの右時効の抗弁も理由がない。

七  そこで被控訴人の損害について判断する。《証拠省略》によると、控訴会社使用の被控訴会社の得意先名簿の人数は約二万名で、その使用回数は本訴提起までに三五回以上に及び、一名当りの使用料は一回について金二〇円ないし二五円が相当であることが認められるから、前記控訴人らの行為によって被控訴会社が被った右名簿の使用料相当の損害は金一、四〇〇万円を下らないものと認められ、他にこれを覆すに足る証拠はない。控訴人らは得意先名簿使用料を損害算出の根拠とすることを争い、損害額は被控訴人が具体的被害の立証として提出した甲第八号証の一、二による商品の売上減少額に限定さるべきであると主張するが、当事者双方会社のような通信販売業者の業界における得意先名簿の重要性、機能に鑑みれば、その名簿使用料を損害算定の根拠とすることはそれなりの合理性を有するものと解すべく、また損害額は甲第八号証の一、二のカタログによる商品の売上減のみに限定さるべきであるとの所論は立論の前提を異にするものであって採用し難い。

八  以上のとおりであるとすると、被控訴人の控訴人らに対する各内金五〇〇万円とこれに対する訴状送達の翌日たること記録上明らかな、控訴会社については昭和五五年九月三〇日以降、控訴人富山については同年一〇月二日以降完済まで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の請求は慰藉料請求に対する判断をなす迄もなく理由があり、これを認容した原判決は相当で、本件各控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用につき民訴法九五条、八九条、九三条一項本文を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今富滿 裁判官 西池季彦 亀岡幹雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例